逆光に輝く大岐の浜
中学に上がる春休みの頃、父親の使い古したカメラを譲り受けた。
小学校の修学旅行にカメラを持ってくる子がちらほらいる時代だったが、
どんなに頼んでもカメラを買ってくれるような家ではなく、意外に早く念願がかなったのは、
高校で化学を教えていた父が、研究用と称して一眼レフを購入したことの、おこぼれのような感じだった。
それは私が生まれた頃に中古で購入した年代物で、当時としても相当に古めかしく、
蛇腹のついたデザインは、カメラと言うよりは写真機だ。
それでも、いっしょにもらった露出計と、赤と黄色のフィルター、
他にもオプションがそろっていて、見ているだけでも十分その気にさせられた。
すべてを自分で操作しなければちゃんと写らない。そこが魅力だ。
特にブランド品ではなかったので、その後、同じカメラを見たことはないが、私にとっては忘れられない初めてのカメラだ。
当時は自宅の近所に何件も写真店があったから、その一軒と親しくなり、
現像や引き伸ばしのこともいろいろと教えてもらった。
そんな頃よく聞かされたのは、「逆光では写真を撮ってはいけない」という決まりごと。
まったく写真に詳しくなくても、一度は聞いたことのある「逆光」と言う言葉。
これは記念撮影をする時に、背景が明るいと顔が暗くなって、良い写真に仕上がらない、ということが理由だが、
当時の自分の経験からすると、逆光だと見た目と違う写真になってしまうと感じていた。
人物でなくても、きらきらと輝く植物や水の流れ、風景なんかも、
太陽に向かって撮ると暗くなったり、画面全体が白っぽくなってしまったりする。美しく見えるのに、そう写らない。
自分にとって「物が美しく見えるのは、逆光の時」、そう感じていたのにいつも失敗だった。
その後、写真を勉強するようになり、カメラの性能も含めて技術があれば、逆光でも見た目と同じように
撮影することができるようになったが、やはり、予期せぬ失敗もあり、普通の撮影よりは今でも神経を使う
この写真は土佐清水市の大岐の浜。撮影は1981年。まだ、写真学校の学生の頃だが、
水も砂も、逆光で輝く時が一番美しいと思っていた。
この浜は砂の目が細かく、水分を含んだ砂の反射は、他の海岸より滑らかで美しい。
そして何よりも、光の入り方が良い。
高知県の海岸をほとんど撮影したが、東に海を見る砂浜は少ないのではないだろうか。
午後になれば陸に向かって太陽が移動する。遠浅の砂浜に脚立と三脚を立てて、海から陸に向かって水面の反射を撮影した。
今ではサーフィンのポイントらしいが、当時はほとんど人のいない海岸で、川の流れ込む砂浜に何日もテントを張って過ごした。
夜になると、砂の中から、ノミの親分のような生き物がたくさん出てきてテントの中で
跳ねるのがつらかった。今調べてみると、ハマトビムシの仲間らしい。